2025/08/12

【連載コラム】今の台湾 導入:黄宣瑜



 「どのような国を築きたいのか」―これはどの国においても悩まなければならない課題です。しかしながら、文化・経済・医療などの発展が著しい台湾においては、それ以前に「私たちは、そもそもどのような国家なのか」という、根本的で存続に関わる問いが繰り返し突きつけられてきた。そしてこの問題に対する答えが与えられないまま、日常生活、制度、社会の隅々にまで影響になる現状こそ、今の台湾が今の台湾である理由でもあります。多くの国民は「台湾人」としてのアイデンティティーを持ちながらも、パスポートや身分証明書などの正式書類には「Republic of China(中華民国)」と記されている。オリンピックでは、「Chinese Taipei(中華台北)」と表記されたユニフォームを着る台湾人選手を応援している。


 こうした齟齬は、育った家庭、受けた教育、使う言語、世代的な記憶、政治経験によって、個々が異なる理解となり、台湾社会には複雑で重層的なアイデンティティのスペクトラムが形成されている。例えば、「台湾」をあらゆる場面で使うことを強く好む人ほど、中国と同一視されたり、中国寄りになることへの警戒や恐れがより強い、政治は日常生活のあらゆる側面に関わるものだと考えがちである。それに対し、名称にあまりこだわらない人は、中国に関わる経済、文化、メディア、言語などを受け入れやすく、中国の反感を招く政策や行動に対しても、比較的反対しやすい傾向がある。その結果、重視する議題や支持する政策、他国への外交姿勢も大きく異なる。もしさらにメディアのアジェンダ設定や中国による政治宣伝と軍事的威嚇(文攻武嚇)が加われば、今後双方の対立はもっと激化するでしょう。


 半導体産業の発展や経済力の向上、高水準な人材の存在によって、台湾は海外から投資先や交流先として大きな魅力を感じられている。一方で、一つの事例や意見を台湾人全員の考え方だとみなすのは誤りであり、台湾社会全体が同様な立場や認識を持っていると考えるのも危険だ。


 このシリーズでは、日本の人たちが今の台湾を想像できるように、台湾人の視角から見た台湾政治、社会、経済、思想のリアルな姿を伝えていく。地縁政治から、台湾・中国・アメリカとの複雑な関係に逃げてはいられない日本にとって、台湾とのより積極的な協力、もしくは主導的な関与を通じて、自国にとって有利な展開を促すことは、今、日本政治や経済の低迷を打開するカギになるはずだ。


黄宣瑜